アートセラピスト養成講座に参加して


先日、アートセラピストHANAの手によるアートセラピスト養成講座に参加してきた.彼女は月に数回アートセラピーのワークショップを開催しており、これまでの参加者はのべ数千人に及ぶという.今回初めて養成講座という形で自身の経験を伝える場を設けることになったとのことで、これはその初回だった.

この日はアナログ画と呼ばれる実際のアートセラピーのワークも行われた.例えば、人は星の絵を「☆」のように描くことが多いが、これはあくまで象徴化された記号としての星であって、実際の星の姿ではないし、自分が感じている星のイメージを絵にしたものとも言えない.前者の記号のような絵はデジタル画、後者の個人的な情感などを絵にしたものはアナログ画と呼ばれる.実際にやってみるとアナログ画は簡単には描けず、いろいろと模索しながら表現せざるを得ないことがわかるが、これは例えば「自分が感じている星のイメージ」は、これまで他の誰かが絵にしたことがないものだからだ.

この日のアナログ画のテーマは「自分の今の気分」だった.彼女のファシリテーションの下で実際に描いてみた体験から、この日自分が受け取ったものの一つは「どんな形であれ、まずは最初の一歩を始めてみる」ことの重要性だった.この日のような絵を描くことであれば、まずは最初の線を描いてみたり、そのための色を選んだりしてみる.うまく描けなくてもいいし、完成形が浮かんでいなくてもいい.どんな形であれ最初の一歩を踏み出して、その結果起こるものに自分の感覚を開いてみる.そこから何かが湧き上がってきたら、それを頼りにまた次の一歩を進めてみる.これを繰り返していくと、いつのまにか夢中になっている自分に気づいたりもする.

描くために割り当てられた時間が終わり、自分が描いたものをあらためて眺めてみると、当初なんとなくイメージしていたものとは違うし、理想的な出来映えというわけでもないが、これが自分の作品だという実感みたいなものは感じる.さらに、参加者それぞれ描いたものを見せ合う時間の中で、それぞれの作品がみなそれぞれ違っているという当たり前の事実にも気づく.自分が表現したものはあまり良いとは思えず、他人が表現したものに魅力を感じたりもするが、やはり自分の目の前にあるものは自分の作品だ.

 
この日の体験を思い出していると、この「常に自分の今の感覚を大事にしながら次の一歩を進めていく」という過程は、絵や音楽といったいわゆるアート的な題材に限らず、日常のあちこちでも重要なものかもしれないとの連想が働いてくる.

例えば料理をすることもそうだろうし、文字通り散歩をすることもそうかもしれない.また、誰かと会話をしたりコミュニケーションをとったりすることや、人生において何かを選択したり決断したりすることなども、「常に自分の今の感覚を大事にしながら次の一歩を進めていく」という過程に沿って行われたときにより豊かなものとなり、後悔のようなものを感じることも少ないように思う.そして、何か行き詰まったり踏み出せなくなってしまっているときには「どんな形であれ、まずは最初の一歩を始めてみる」ことが突破口になるのかもしれない.

これらを表現やアートと呼ぶのかはわからないが、こうしたことを考えていると、彼女が大事にしているという「人はみなアーティスト」「人生はアート」という言葉が、ただの耳触りのいいスローガンのようなものではなく、自分にとってより実感を伴って響いてくるような気はしている.

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